2022年1月上旬――

「ああ、また……」

あたしは寝心地の悪さで目を覚ます。おしりや背中にはひんやりとした感覚。漂うアンモニアのにおい。ここ最近では見慣れた光景。あたしはクリスマスの失恋によるショックで2週間連続でおねしょをしてしまっていた。不名誉なことにあたしの保持していた連続おねしょの記録を更新してしまった。

2週間連続でおねしょをしてしまったナオミ

連日のおねしょやおもらしで紙おむつはとっくに使い切り、だけど買いに行く気力も湧かない。アパートで一人暮らしなので家族に買い物をお願いすることも出来ず。仕方が無いのでベッドにはおねしょシーツを敷き、寝間着が汚れるのが嫌でパンティ一枚で眠っていた。

頭がボーとする。食欲は無い。夜もあまり眠れていない。少しだけ眠るとその間に必ずおねしょしてしまう。

「ぐす……」

失恋した悲しみ、苦しみ、辛さ、そしておねしょをしてしまった恥ずかしさ、情けなさ……。両目から涙が流れる。様々な負の感情であたしの心はぐちゃぐちゃになっていた。

年末年始は実家には帰らなかったし、毎年恒例のしかぶったの集まりも行かなかった。スマホには友人・知人からあたしを心配するメッセージがたくさん入っていたが、あたしはそれを鬱陶しく思い、拒絶するようにスマホの電源を切った。まるであたしの心は冷たく凍り付いてしまったようだ。

何もしたくないけどこのままだとにおいがきつくなるので、ベッドのシーツ、おねしょシーツ、穿いていたパンティを洗濯機の中に入れて洗う。最近では洗濯機で洗えるおねしょシーツが増えてきたのでこういう時は便利だ。その間に自分はシャワーを軽く浴びた。ここ最近の朝のルーティンだけど、ルーティン化していることが情けない。

シャワーを浴び終わり、バスタオルで身体を拭き、服を着て、ドライヤーで髪を乾かす。そのあとは体操座りで洗濯が終わるのを待つ。

洗濯が終わり、シーツをベランダに干していると、下の方で「プップー」と車のクラクションが聞こえた。視線をそちらへ移すと、所長と風香さんの姿があった。

「よう。ナオミ君。またおねしょでもしたのか?」

所長はいつものように憎まれ口を叩く。いつもなら言い訳の一つもするところだが、今のあたしにそんな元気は無い。

あたしは何も返事をせず、ベランダから部屋に戻り窓を閉める。

ごめんね……。多分心配して来てくれたんだよね……。なのにそれを無下にするのは人として最低だ。本当に自分が嫌になる。嫌いだ。消えて無くなりたい。あたしは膝を抱え再びすすり泣く。

「ピンポーン」

部屋のチャイムが鳴る。おそらく所長たちだ。あたしは応答せずそのまますすり泣き続けた。その後何回かチャイムが鳴ったが、あたしは無視を続け、やがて静かになる。

「ぐす……。帰ったかな……」

そう思った次の瞬間

「ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン」

けたたましいチャイムの連打が……。

「……! もうっ! 今はそんな気分じゃないのに!」

あたしはイラッとして思わず玄関のドアを開けてしまった。玄関先にはもちろん所長と風香さん。

「なんなんですか!」

「ドライブに行くぞ!!」

所長は有無を言わさずあたしの腕を強引に引っぱる。

「ちょっ、今はそんな気分じゃ……」

「ま……、まぁ、いいからいいから……っ!」

風香さんもそう言ってあたしの背中を押す。

「え……えぇぇぇぇぇ……」

あたしは着の身着のまま無理矢理所長の車に乗せられてしまった。

 

◆ ◆ ◆

 

運転は所長、助手席には風香さん、そしてあたしは後部座席。

車内はエンジン音だけが響き、会話はない。所長も風香さんも元々ベラベラ喋るタイプでもないし、会話を盛り上げるのはいつもあたし。そんなあたしが何も喋らないから所長も風香さんもなんだか気まずそうにしている。

「キョ……、キョウモテンキガイイナ、フウカクン」

「ソ……、ソウデスネ……」

「……」

「……」

不器用か!!

……思わずツッコみそうになってしまった。あぁ、この人たちといると調子が狂う。

車は福岡市の中心部を抜け、福岡市東区に入る。東区は都市部と比べて比較的静かでのんびりとした雰囲気が心地よく、個人的に好きな場所でもある。さらに車はイオンモール香椎浜の横を通り、福岡アイランドシティを通過し、「海の中道」に差しかかる。

海の中道

海の中道は志賀島しかのしまと九州本土を繋ぐ全長約8km、最大幅約2.5kmの巨大な陸繋砂州りくけいさす。その名の通り海の中に道があるので海の中道。この砂州の北は玄界灘、南は博多湾となっており、2つの水域が海の中道で分け隔てられている。また、福岡市内のリゾート地として多くの施設を抱えており、特に「海の中道海浜公園」や「マリンワールド海の中道」は福岡市民であれば一度は訪れた事があるだろう。

海の中道から志賀島を一周するルートは福岡のドライブ・ツーリングスポットとしては定番だ。

海の中道海岸

志賀島は、後漢の光武帝が奴国の王に与えたとされている金印が発見されたことを記念した「金印公園」が有名だ。その先にあるホテル「休暇村 志賀島」は天気が良い日に大勢のライダーがたむろしている光景はある意味名物。また、夏場は海水浴客などで賑わいをみせる。

車内は相変わらず会話は少ないけど、空は快晴で車窓から差し込む日差しがぽかぽか心地いい。

「し……、シカノシマ ニ イクンデスネ……ッ!」

「ソ……、ソウダ」

「……」

「……」

そして、ぎこちなくしている所長と風香さんが面白い(笑)。でも、よく考えるとあたしを元気づけるために二人とも不器用なりに頑張ってくれているんだよね。それがなんだか微笑ましく、愛おしくも感じた。天気の良さも味方して、凍り付いたあたしの心が少し解けてきたような、そんな気持ちになった。

 

◆ ◆ ◆

 

志賀島 波止場

志賀島に入りそこから少し先にある波止場に所長は車を停めた。車から降りると、快晴とは言え1月の空気。風が冷たい。着の身着のままで連れ出されたあたしは上着を着てなくて身震いをする。すると風香さんが自分の着ていた上着を貸してくれた。

「ありがと。でも風香さんも寒いんじゃ……」

「大丈夫よ。私は寒いの好きだから……っ!」

風香さんは優しい笑顔でうふふと笑う。あたしはその優しさに涙が出そうになった。

「じゃあ、風香君には私の上着を貸してやろう」

急に紳士ぶる所長。

「ひゃっ!? い……、いいです……っ!!」

それを拒否る風香さん。

「うぐぐ……。そんなに嫌がらなくても良いではないか!」

所長も鈍感やな。

「あはは。加齢臭がしそうだからね」

「まだそんな歳ではないわ!!」

いつものしかぶったの感じだ。あたしは自然と笑顔が出ていた。

博多湾

あたしたちは堤防に腰掛け、景色を眺める。そこからは博多湾が一望でき、太陽の光が水面にきらきらと反射して眩しい。

福岡ドーム

「あ、見て見て、福岡ドームが見えるよ んー、気持ちいい!!」

あたしは大きな伸びをして、大きく息を吐く。

「少しは元気が出たようだな」

所長は普段は決して見せない優しい笑みを浮かべる。

「おかげさまで。……でもまだ心の奥がチクチク痛いけど」

あたしは胸に手を当て苦笑いをする。

「そうか。辛かったな」

「……」

あたしは言葉に詰まって何も言うことが出来ない。

「どうした?」

「ぐすっ……。なんでこういうときだけ優しいんですかぁ……」

「……」

「うあああん」

凍り付いたあたしの心が一気に解け、氷解水が涙へ変わり両目から溢れて止まらない。あたしは所長の肩で子供みたいに思いっきり泣いてしまった。そういえば、先輩にフられてから、こんなに思いっきり泣くことは無かったな。

「……」

所長はあたしが泣き止むまで何も言わずに待っていてくれた。

いつも所長にセクハラまがいのことばかりされているのに、何であたしはしかぶったに残っているんだろうと考えたことがある。その答えが少しわかった気がする。

 

◆ ◆ ◆

 

「ぐすっ……」

「ほら。顔がぐちゃぐちゃだぞ」

所長はそう言って、ハンカチを貸してくれた。

「うん……」

あたしは涙を拭き、さらに恥も見聞も無くチーンと鼻をかむ。

「おいおい(笑)」

「えへへ。洗って返すから」

あたしはイタズラっぽく笑う。

「落ち着いたか?」

「うん。もう大丈夫。

……。

あーあ、先輩、なんでこんないい女をフるかな~」

「自分で言うか?(笑)」

あたしは大きく息を吸って、海に向かって叫んだ。

「先輩のバカやろ~~~~~!!!! もっといい女になって後悔させてやるからな~~~~~~!!!!!!」

あたしの叫び声が博多湾に響き渡り、悲しい気持ちと共に消えていく。

「ああー、思いっきり泣いて、叫んで、スッキリした!!」

「青春だな」

「にひひ。今日はありがと!」

あたしは満面の笑みで所長に感謝の言葉を伝える。

「いえいえ。んじゃあ行きますか」

「うん。そういや風香さんは?」

「確かに。さっきから姿が見えんな」

あたしたちはそう言って辺りを見渡すと、波止場の隅の方でうずくまり震えている風香さんの姿があった。

「ああっ! ごめんね風香さん! 寒かったでしょ!?」

あたしはそう言って貸してくれていた上着を風香さんに返そうとするが、彼女はそれを拒むように首を横に振る。

「ううん。い、いいのよ。そ……、それよりナオミちゃんに元気を出して欲しくて……、み、見せたいものがあるの」

「見せたいもの?」

風香さんはそう言うと、堤防の上に立ち、丈の長いスカートをめくり上げ、穿いている赤いパンティをあたしに見せつけてくる。

おもらしをナオミに見せつける風香①

「ま、まさか……」

「そ、そのまさかよぉ!」

おしっこのシミが広がる赤パンティ

風香さんはそう言うと、あたしに見せつけていたパンティからじわっとシミが広がり、次の瞬間雫となり地面に落ちていく。そう、博多湾をバックに風香さんはおもらしをはじめたのだ。その表情は恍惚に満ちあふれていた。

おもらしをナオミに見せつける風香③

「ぎゃああああああっ!」

ビチャビチャと音を立て、堤防に滴り落ちた風香さんのおしっこの飛沫があたしに直撃する。

「あは~ん。ナオミちゃん、これで元気出してねぇ~!!」

「ちょっと! あたしはあんたみたいにおもらしするのも見るのも好きじゃないわッ!!! てゆーか上着を貸してくれたのも寒さでおしっこを溜めるためか!! ちょっと感動して損したわ!!」

「あら~ん。ナオミちゃんったらつれないんだ~」

「あんた結局自分が楽しんでいるだけだろ!!」

おもらしをナオミに見せつける風香④

「だあーっはっはっはっは!! オチはドタバタ劇! なんともしかぶったらしいな!!」

所長は二人の姿を見て腹を抱えて笑っている。

「これどうすうのよもう~~~~! あたしも風香さんもビショビショじゃない!」